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奈良地方裁判所 昭和47年(ワ)224号 判決

主文

一、被告服部清司は原告に対し別紙目録(二)記載の建物につき、奈良地方法務局昭和四五年九月二四日受付第弐〇九参六号所有権移転請求権保全仮登記にもとづく昭和四六年七月一五日代物弁済を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

二、被告石橋正一は被告服部清司が原告に対し右一項の建物につき、奈良地方法務局昭和四五年九月二四日受付第弐〇九参六号所有権移転請求権仮登記にもとづく昭和四六年七月一五日代物弁済を原因とする所有権移転登記手続をなすことを承諾せよ。

三、訴訟費用は被告らの負担とする。

原告の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者の求めた裁判)

昭和四七年(ワ)第二二四号、同五一年(ワ)第二三八号原告昭和四八年(ワ)第一二号被告西日本建設業保証株式会社(以下単に原告という)訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。

昭和四七年(ワ)第二二四号被告、昭和四八年(ワ)第一二号原告服部清司(以下単に被告服部清司という)訴訟代理人は昭和四七年(ワ)第二二四号事件につきいずれも「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、昭和四八年(ワ)第一二号事件につき、「原告は被告服部清司に対し、一、(一)別紙目録(一)記載の土地について、1奈良地方法務局昭和四参年五月壱参日受付第九参七七号をもつてなした同年四月参〇日代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権仮登記、2同法務局昭和四五年九月弐四日受付第弐〇九参五号をもつてなした昭和四五年九月五日譲渡担保を原因とする所有権移転登記、(二)同目録(二)記載の建物について同法務局昭和四五年九月弐四日受付第弐〇九参六号をもつてなした昭和四五年九月五日代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権仮登記の各抹消登記手続をせよ。二、原告は被告服部清司に対し右建物を明渡し、かつ本訴状送達の翌日から明渡済まで一ケ月金三〇万円の割合による金員を支払え。三、訴訟費用は原告の負担とする。」との判決ならびに二項につき仮執行の宣言を求め、被告石橋正一訴訟代理人は昭和五一年(ワ)第二三八号事件につき、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

(当事者の主張)

原告訴訟代理人は昭和四七年(ワ)第二二四号、同五一年(ワ)第二三八号事件の請求原因、昭和四八年(ワ)第一二号事件の答弁としてつぎのように述べた。

「 原告が別紙目録記載の土地、建物(以下本件土地、建物という)につき、被告服部清司主張の登記、仮登記を了し、本件建物を占有していることは認めるが、その余の同被告主張事実は否認する。

一、昭和四八年(ワ)第一二号事件についての被告服部清司の請求趣旨一項(一)1の所有権移転請求権仮登記について、

(一)  原告は公共工事の前払金保証事業に関する法律にもとづき、建設大臣の登録を受けて、前払金保証、建設機械金融保証等の事業を営む会社であり、訴外服部興業株式会社は土木工事の請負を業とする会社であるところ、同訴外会社が株式会社南都銀行本店より金四、〇〇〇万円の建設機械購入資金を分割返済の約で借受けるに当つて、原告に対し、原告の建設機械金融保証約款を承認の上、建設機械金融の保証の申込をなし、その結果昭和四三年四月三〇日原告、訴外会社間に建設機械金融保証契約が締結され、訴外会社は同日右金融機関より右金員の貸付を受けた。

(二)  右建設機械金融保証契約締結に当り、訴外会社が原告に対し将来負担することあるべき求償債務その他の債務を担保するため被告服部清司ならびにその親権者父服部安男が連帯保証人となるとともに、右契約日に同被告所有にかゝる本件土地につき、訴外会社が借入金償還の債務を履行しないため原告が金融機関に対し保証金を支払つたときは、これを原告がその指示する価額を以て所有権取得する旨の代物弁済予約を締結した。

右予約にもとづき原告は本件土地に本件所有権移転請求権仮登記を了したのである。

二、前同事件についての同被告請求趣旨一項(一)2の所有権移転登記ならびに同一項(二)の所有権移転請求権仮登記(昭和四七年(ワ)第二二四号、同四九年(ワ)第一五三号事件についての原告請求趣旨の仮登記に同じ)について。

(一)  昭和四四年訴外会社は経営状態が悪化して金融機関からの借受元利金の支払を遅滞し、このため原告は金融機関より代位弁済の請求を受け、その結果同年九月二六日金四〇四六万六、四〇〇円の元利金を各金融機関に代位弁済し、訴外会社に同額の求償債権を取得した。

その結果原告は同被告に対し、同年一〇月一日本件土地を合計一三八〇万円で代物弁済する旨の完結の意思表示をし、同年一二月本件土地の所有権移転登記手続等を求める訴を提起し、同訴は大阪地方裁判所昭和四四年(ワ)第七、二五一号事件として同庁に係属した。

(二)  昭和四五年一二月二二日右事件および同年(ワ)第一、八一六号併合事件につき、原告と被告服部清司間に弁護士酒井圭次を同被告の代理人としてつぎのような和解が成立した。

1 訴外会社が原告に対し負担する求償債務金二億八六六〇万七、一九二円のうち金八四一七万一一二円を担保するため同被告は本件土地を原告に信託譲渡し、原告はこれを譲受けてその引渡を受け、当事者間の内部関係においても、第三者に対する外部関係においても完全にその所有権を原告に移転したことを認める。

さらに同被告はその所有にかゝる本件建物(右債権のうち金二、〇〇〇万円を担保する)を、債務の履行遅滞のとき代物弁済として原告に所有権移転することを認める。

2 原告は既に本件土地、建物につき同被告請求趣旨一項記載の各所有権移転登記ならびに所有権移転請求権仮登記手続を完了した。

3 同被告の親権者である服部安男、同松枝は原告の右担保提供行為につき民法第八二六条所定の手続を昭和四六年一月末日までに管轄家庭裁判所にとること。

4 訴外会社は1項の求償債務を左記のとおり分割の上支払うものとし、同分割金の支払を二回以上遅滞したときまたは本和解に定められた義務を履行しないときには分割弁済および期限の利益を失う。

(1) 昭和四六年五月末日かぎり 金一〇〇万円

(2) 同   年六月末日かぎり 金二〇〇万円

(3) 同   年七月末日かぎり 金三〇〇万円

(4) 同   年八月末日かぎり 金四〇〇万円

(5) 同   年九月より同年一二月まで毎月末日かぎり

金五〇〇万円宛

(6) 昭和四七年一月より同年一〇月まで毎月末日かぎり

金一、〇〇〇万円宛

(但し同年一〇月末日支払分は 金九七六万八三六七円)

(7) 昭和四八年三月より昭和四九年三月まで毎月末日かぎり

金一、三〇〇万円宛

(但し昭和四八年三月支払分は金七〇〇万五三八三円、昭和四九年三月支払分は金六八三万三四四二円)

5 右による分割弁済および期限の利益を喪失したときは、原告は本件土地ならびに本件建物につき資格ある鑑定人に鑑定させ、その鑑定価額をもつて代物弁済する旨の意思表示をもつて、その所有権を取得することができる。

(三)  しかるに訴外会社は昭和四六年五月末日および同年六月末日かぎり支払うべき前項分割金の支払を遅滞するに至つた。そこで原告は本件土地、建物を資格ある鑑定人に鑑定させたところ、本件土地については一四一六番九が金一一一一万三、二三四円、同番地一三が金六一六万九、四〇三円、同番地一六が金二七万四一円、本件建物については金一五一八万七、〇〇〇円の各鑑定評価(評価時点昭和四六年七月八日)を得たので、同被告に対し昭和四六年七月一四日付同月一五日到達の内容証明郵便で、本件土地については右鑑定価額で、本件建物については右鑑定価額より高額の金二、〇〇〇万円で代物弁済する旨の完結の意思表示をした。

三、なお原告に対する前記担保提供行為についてはそれが利益相反行為に該ることは認めるが奈良家庭裁判所昭和四五年(家)第六六〇号特別代理人選任事件の審判により、特別代理人に選任された高山ツヅコが昭和四六年七月三一日これを追認しているから、被告の抗弁は理由がない。

四、よつて被告服部清司は原告に対し、昭和四七年(ワ)第二二四号請求の趣旨記載のとおり代物弁済による所有権移転の本登記手続をなすべき義務があり、昭和四八年(ワ)第一二号事件被告請求趣旨一項の各登記について抹消を求める同被告の主張はなんら理由がない。

さらに本件建物は以上の経緯により原告の所有、占有に帰したものであるから、その明渡を求める同被告の主張も同様理由がない

五、(昭和五一年(ワ)第二三八号事件)

(一)  ところが訴外今田実は、原告の本件建物に対する仮登記後の昭和四七年九月二二日奈良地方法務局受付第弐四参四壱号抵当権設定登記をなし、同訴外人は被告石橋正一に対し本件建物について同年六月二二日受付第一七〇九七号をもつて、同年五月二日債権譲渡を原因とする抵当権移転登記手続を了した。

(二)  よつて被告石橋正一は原告に対し請求の趣旨記載のとおり、本件建物につき代物弁済による所有権移転登記手続の承諾をなすべき義務がある。」

被告服部清司訴訟代理人は昭和四八年(ワ)第一二号事件の請求原因、昭和四七年(ワ)第二二四号事件の答弁ならびに抗弁としてつぎのように述べた。

「一、原告の前記請求原因事実のうち一項(一)の事実および訴外会社が昭和四六年五月および六月の各分割金を支払つていないことは認めるが、その余の事実は否認する。

二、1 原告主張の和解につき、被告服部清司親権者母松枝は右事件の委任を弁護士酒井圭次になしたことはなく、右委任状は偽造である。

2 右和解は同被告と親権者の利益相反行為として無効である。

3 よつて本件土地、建物は依然同被告の所有であり、昭和四八年(ワ)第一二号請求趣旨記載の各登記をなしたことはなく、何人に対しても右代理権を附与したこともないから、原告は同被告に対し右各登記の抹消登記手続をなすべき義務がある。

また原告は本件建物をなんらの権原なく占有しているから、原告に対し右建物を明渡し、本訴状送達の翌日から明渡済まで一ケ月金三〇万円の割合による賃料相当損害金を支払うべき義務がある。」

被告石橋正一訴訟代理人は昭和五一年(ワ)第二三八号事件の答弁として、原告の請求原因五、(一)の事実は認めるが、

原告が昭和四五年九月五日被告服部清司の親権者服部安男との間で本件建物について、原告の訴外会社に対する求償債権を担保するため代物弁済予約を締結したこと、訴外会社が右求償債務の履行を怠つたため原告は被告服部清司に対し昭和四六年七月一四日代物弁済として本件建物を取得した旨通知したとの事実は不知と述べた。

(証拠関係)(省略)

別紙

目録(一)

奈良市法蓮町字多門山壱四壱六番地九

山林 五参五平方米

奈良市法蓮町字多門山壱四壱六番地壱参

山林 弐九七平方米

奈良市法蓮町字多門山壱四壱六番地壱六

山林 壱参平方米

目録(二)

奈良市法蓮町壱四壱六番地九、壱参、壱四地上

家屋番号 壱四壱六番壱参

鉄筋コンクリート造陸屋根参階建居宅

床面積 壱階 壱八弐・壱弐平方メートル

弐階 壱弐六・九四平方メートル

参階 弐・壱六平方メートル

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